学長メッセージ
学長 小原 克博
ダイバーシティの尊重──それは同志社がその創設時から大切にしているミッションです。
同志社の設立者・新島襄は、大学の理想像を「深山大沢」という中国古典に由来する言葉によって語りました。「我が校をして深山大沢のごとくになし、小魚も生長せしめ、大魚も自在に発育せしめ」は、その代表的なものです。「深山大沢」を現代的に言い換えれば、「様々な個性を生かし育む、多様性と驚きに満ちた環境」となるでしょう。新島は、一人一人がそれぞれの個性を発揮できるキャンパスを夢見ていたのです。
「深山大沢」が連想させるもう一つの言葉は、新島が同志社創立10周年記念の際に発した「諸君よ、人一人は大切なり」という言葉です。近年、この言葉は本学でキャッチフレーズ的に使われることが多いのですが、ここでは、その理解を深めるため、前後の文脈を含め、少し長めに引用したいと思います。
諸君と共に今、往事を追想して紀念したきは、昨年、我れ不在中、同志社を放逐(ほうちく)せられたりし人々の事なり。
真に彼らの為(た)めに涙を流さざるを得ず。彼らは或(ある)いは真道を聞き、真の学問をなせし人々なれども、遂に放逐せらるるの事をなしたり。諸君よ、人一人は大切なり。一人は大切なり。
往事は已(すで)に去れり。これを如何ともする事能わず。以後は我ら実に謹むべし(先生流涕(りゅうてい)、胸塞ぐを演(の)べらる。満場一人として袖を濡らさざる者、なかりき)。(「同志社創立十周年記念講演」1885年、『新島襄 教育宗教論集』112頁)
同志社10周年記念は、来賓も多く参加する祝いの式典でした。その晴れがましい雰囲気を壊すかのように発せられた、退学させられた学生を思う新島の発言を、その場に居合わせた人たちはどのように聞いたのでしょうか。「以後は我ら実に謹むべし」という結びの言葉は、新島自身を含む、同志社関係者全員に向けられています。その深い反省に立って10周年の場に臨んだ新島が、涙ながらに訴える「人一人は大切なり」という言葉を聞いた者たちは皆、涙で袖を濡らしたと伝えられています。新島にとって10周年記念は、同志社の功績を誇るのではなく、自らの不足を顧みて、関係者と共に同志社の「再生」を誓う日となりました。
このような同志社の歴史を通じて受け継がれてきた「人一人は大切なり」という言葉が、現代的な文脈の中で表現し直されたものとして、私たちは「ダイバーシティ」を理解することができます。そうすれば、ダイバーシティはただの流行り言葉ではなく、私たち一人一人の、そして同志社の「再生」の言葉となるに違いありません。
このような歴史とミッションをもった本学は、継続してダイバーシティの尊重に取り組んできましたが、2020年度にはそれをより明確に社会に発信するために「同志社大学ダイバーシティ宣言」を制定して公表しました。その内容は以下の通りです。
1.国籍、性別、障がい、性的指向・性自認、文化、宗教、思想信条等、様々な背景を持つ本学構成員が、共に学び、共に働くことができるキャンパスを形成します。
2.本学構成員が、教育や研究、その他の活動の場において個々の能力を十分に発揮し、多様な人々が等しく参画できる環境づくりを目指します。
3.合理的配慮を要する本学構成員に対する支援体制を整え、社会的障壁の除去に対する理解の醸成を促進します。
4.ダイバーシティに対する意識の啓発を推進し、あらゆる人びとの人権を尊重できるダイバーシティの視点に立った人物を養成します。
そして学生のダイバーシティの尊重という観点から、学生支援機構では、身体、精神等の障がいの種別を問わず、シームレスに対応する総合窓口が必要と判断し、これまでの障がい学生支援室とカウンセリングセンター特別支援オフィスの機能を統合し、2021年4月にスチューデントダイバーシティ・アクセシビリティ支援室(SDA室)を設置しました。
SDA室の目的は二つあります。一つ目は、身体、精神等に障がいのある学生の支援です。2000年に障がい学生支援制度を、そして2008年には障がい学生支援室を設置し、本学は障がい学生支援の先進校として高等教育機関を牽引してきました。また、2013年4月よりカウンセリングセンター内に「特別支援オフィス」を開設し、発達障害など学生生活において、特別な支援を必要とされる学生への支援を行ってきました。今後も学生目線での支援を続けてまいります。二つ目は、多様な性的指向・性自認を持つ学生の支援です。本学でも、SOGI(性的指向:Sexual Orientationと性自認:Gender Identity)の受け皿を設置する必要があるとの思いから、窓口の設置に至りました。
SDA室では、ジェンダーやセクシュアリティに関する専門知識がある職員が対応しますので活用してください。もちろん、SDA室は何か特別な困りごとがある学生のみを対象とした窓口ではありません。日常の些細な疑問、違和感、心配事などがあれば何でも相談してください。
本学は今後も、新島の「人一人は大切なり」という再生の誓いを忘れることなく、一人一人に寄り添う大学であり続けます。